40代以上の経営幹部クラスの方でも、転職経験が少なければ「自己PRの方法がわからない」という方がたくさんおられます。履歴書は簡潔にまとめられても、職務経歴書の表現は一段と難しく、面接での自己PRとなるとさらに難易度が上がります。エグゼクティブ転職の自己PRは、いったい何に気をつけるべきなのでしょうか?

「まじめで礼儀正しく、頭脳明晰な、空っぽ」

先日、売り上げ30億円規模の医薬品製造の上場企業で、営業部長職として勤務されている48歳のAさんと、キャリア相談の件でお会いしました。年齢を感じさせないくらいとてもさわやかで魅力的な笑顔、会話の仕方、ポイントを突いた回答など、かなり仕事ができる方、という第一印象でした。職務経歴書には、数々のプロジェクトの成功が、売上金額や達成率、シェア改善などの数字とともに見事に並んでいます。

ただ、じっくり話を伺っていくと、いくつか気になるポイントがありました。

1つめは、過去の転職歴が6社と比較的多く、その時々の転職理由に受動的なものが多かったこと。「入社前に聞いていた営業戦略がトップの方針変更で実現できなくなった(営業部長を1年で退職)」や、「思った以上に長時間労働で、体力的にもたなくなった(事業部長を1年半で退職)」など、職責の大きさと退職理由にギャップがあることに違和感を持ちました。

もし営業部長として入社されたなら営業戦略の意思決定に権限責任を持っているはずだし、事業部長であれば、自分だけでなく組織全体の労働時間の在り方なども逆に自ら改善していくべきではないか、といった疑問です。ひと言でいうと「自分に権限があるにもかかわらず他責的」ということです。

2点目は、職務経歴書に書かれた輝かしい業績に対するご自身の関与度が、具体的に語られなかったことです。管理職以上の方であれば、当然、個人としての業績ではなく、担当組織全体の結果が問われるのは当然です。その業績結果を生み出すために、責任者としてどう関わり、どのように戦略を練り、戦術的な工夫をしたのか、という部分がすっぽり抜け落ちていたため、リアリティーが感じとれませんでした。

そして3点目が、これまでの仕事とこれからやっていきたいことの中に、ご自身の意思が盛り込まれた発言が少なかったこと。長いビジネスキャリアを通じてやり遂げてきたことや身に付けてこられた力量を使って、残り20年という仕事人生の最終フェーズで「何をやりたいのか?」「どんな結果を生み出したいのか?」というご自身の本音は、ほとんど表現されることがありませんでした。

いくつか角度を変えて質問をしても、職務経歴書に書かれている抽象度の高い“きれいな言葉”が繰り返されるだけでした。ご本人もこちらの意図に応えようとしてくださるのですが、生々しい言葉や本音がうまく表現できず、苦しいご様子でした。話題を変えて、現在の活動状況を伺うと、15社に応募して面接まで進んだのが4社、どれも結果が芳しくないとのこと。

「今後、うちでどんなことをやっていきたいのか、という質問を面接で聞かれませんでしたか?」と伺うと、「確かに同じニュアンスの質問は4社ともありましたが、なかなかうまく答えられませんでした」ということでした。不採用になった1社からは転職エージェント経由で「まじめで礼儀正しく、頭脳も明晰(めいせき)、コミュニケーションも優れているが、ご自身の意思は空っぽなのではないか」という不採用理由を聞かされショックを受けた、と正直に話してくださいました。

事実と思いを重ねて仕事人生をストーリー化する

管理職クラス以上の転職の場合は、どんな仕事でも多かれ少なかれ、自分なりに戦略を練る力、周囲のメンバーをマネジメントする力、そしてメンバーのマインドを奮い立たせるリーダーシップを求められるケースが圧倒的に増加します。ただ、歴史の古い会社や、景気に左右されない安定的な業界、カリスマ経営者がトップダウンで長年采配を振るうなど、閉鎖的な環境で変化が少ない業界の場合は、管理職であってもプレーヤーに近い期待値しか受けないこともあります。

そういう環境に長くなじんでしまうと、当然ながら、自分の頭の中での管理職や経営幹部の役割責任の定義が、本来求められるべき範囲よりも小さなものになってしまうことがあります。一生、同じ環境にいるのであればそれでも問題はありませんが、いざ外部に出て、競争環境の激しい会社の経営幹部というモノサシで期待を受けると、それに応えきれずにオーバーフローしてしまいます。

その段階で、社会人として生まれ育った環境に疑問を持ち、ギャップ解消に動き出せればいいのですが、長年の習慣はなかなか簡単には変えられません。結果的に、他責的になり、次の職場へ移り、また同じ壁にぶつかる、というケースは往々にしてあります。「1社目の経験が長く、それ以降、短期間で転職を繰り返す」というパターンの方は、その可能性が高いかもしれません。

ただ、だからと言って、方法がないわけではありません。Aさんの場合にも、ていねいに過去の仕事をひもといていくと、やはり自分の意思で業績を生み出してきた事実はありました。社長の出す方針に疑問を感じて、顧客の利益と会社の継続的利益を考えると、短期的に損をするように見えても、長期的に必ず顧客からの支持につながるという販促施策を勝ち取った経験が、ようやくAさんの口から出てきました。

自分自身が確信をもって、かつ周囲の圧力と戦って勝ち取った成果は、高い自己信頼とともに語られるので、当然、説得力は圧倒的です。その当時の自分の思い、社長と議論する勇気を振り絞れた理由、戦略変更が実現した際に喜んでくれた部下たちの喜ぶ姿。みずみずしくリアリティーを持った話こそ、Aさん自身を表すエピソードとして語られるべきものでした。さっそくAさんは職務経歴書を肉付けし、面接時の自己紹介でのスクリプトも大幅に変更したと連絡をくれました。まだ結果は出ていませんが、必ず面接相手の心を動かすエピソードになると信じています。

自分は何屋なのか? にエッジを立てる

総合職として採用され、数年で部署や役割の異動があることが当たり前の「日本型カンパニー採用」では、どうしてもキャリアが複層化し、かつ器用な人であればあるほど、それに順応して成果を残せるがために、「均整の取れたゼネラリスト」になりがちです。組織の意をくんで、周囲と調整しながら求められた成果を生み出していく優れたオペレーターとしての経験値が積み上がり、役職が上がり、報酬も上がっていくシステムは、まだ多くの業界に残っています。

表向きには年功序列制度が廃止されている会社であっても、マネジメントシステムや評価制度の運用が根本的に変わっていないために、旧来型の人材が育成される土壌が温存されていると言ってもいいかもしれません。

そんな環境の中で長年やってきた方でも、キャリアの中での「取捨・軽重・後先・シェア」は必ず順序づけられるはずです。自分なりに考える得意分野や達成感の強かった業績、特に自分の意思が発露され、成功につながったエピソードを重点的に「自分はいったい何屋なのか?」を煮詰めていくと、生き生きと働きながら次の会社で貢献できることを訴求できる可能性が高まります。

特に、成功体験のエピソードの中には、その人独自の仕事への向き合い方、周囲とのかかわり方(働きかけ方)、戦略や戦術面での個性、粘り強さが凝縮されているはずです。ぜひそんなエピソードを、まずは一つだけでも、ストーリーとして再整理してみることを強く勧めたいと思います。

目の前に立ちはだかっていた壁を乗り越えるために、どんな戦略を考え、誰をどのように巻き込み、どのような計画を立て、計画通りにいかなかった際にどのように戦術を変更し、そして目標をクリアしていったのか。目の前でドラマを見ているかのように表現できるだけで、面接担当者があなたに引きつけられていく度合いはまったく変わるかもしれません。その力量を応募先の会社で活(い)かすことで、どんなシナジーが生まれ、事業を推進させてくれるか、相手をわくわくさせることも決して不可能ではありません。


※この記事は日経電子版「NIKKEI STYLE」に掲載されました。CR40を運営するルーセントドアーズ株式会社代表の黒田真行が執筆しています。

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