企業からの注目度が増し、求人ニーズが高まりつつある「ミドル・シニア世代」。実際にはどんな人が、どんな転職を実現しているのでしょうか? リクルートキャリアで15年以上にわたり6000人余りのミドル世代の転職支援をしてきたベテラン転職アドバイザーの柴田教夫さんに「40代以上で希望の転職を実現できる人とできない人」の違いを聞きました。

同業種以外にも視野を広げてみる

――40代以上のミドル世代の注目度が増しているとのことですが、実際には希望通りの転職ができる人と、できない人がいるようです。この「差」はどこにあるのでしょうか。

長く同じ業界で、同じ仕事をしてきた方々の傾向として、転職先に対する視野が非常に限定されているケースが多いように感じています。結論としては、自身が携わってきた分野に固執し過ぎることなく、広い視野で経験を生かせる環境を探した方が、希望に近い、あるいは満足度の高い転職を実現できていると思います。

数年前に食品の製造現場において、相次いで異物混入が起きたことがありました。それを受けて、ある関西の老舗食品メーカーから、品質管理の水準を高めるために品質管理部長を採用したいとのご依頼をいただきました。当初のご要望は、当然ながら「食品の品質管理のプロフェッショナル」というものでした。しかし、結果的に採用されたのは、生命保険会社で営業部長をしておられたBさん(当時52歳)。食品業界でも、品質管理のプロでもない方でした。

一般的に「食品メーカーの品質管理は、特殊な仕事」と捉えられがちです。だからこそ、食品メーカーA社も当初は「同じ食品メーカーの品質管理経験者」を求めていたのです。しかし、仕事内容をじっくりお聞きしていくと、現場で働くたくさんのパート、アルバイトを束ね、ルーティン業務である品質管理や衛生管理の行動を徹底させるのが最も重要な役割だとわかったんです。つまり、食品の品質管理や衛生面などの専門性に精通していることよりも、定型的で地道な業務をスタッフに徹底的にやり切ってもらうマネジメント力のほうが重要だったのです。

そこで、まず経験業界や経験職種の枠にとらわれず、ルーティン業務のスタッフマネジメントという観点で候補者を探していきました。そのプロセスで、生命保険の営業現場でたくさんの「生保レディ」を束ねてきたBさんと出会うことができました。ご存じの通り生命保険の営業も、細かな業務の積み重ねが重要で、スタッフの皆さんへの動機付けや業務マネジメントが不可欠な仕事だったからです。

Aさん自身、まさか自分の経験が食品メーカーの品質管理で役立つとは思わなかったでしょう。しかし、我々の提案がきっかけではありましたが、ご自身でこだわりを捨て視野を広げた結果、「この食品メーカーならば自分の力が生かせるのではないか」と気付かれたのです。現在、Bさんはたくさんのパート、アルバイトの皆さんに慕われ大活躍しており、A社にとってもなくてはならない存在になっています。

――今まで自分が所属してきた業界や職種でないと「経験が生かせない」と躊躇(ちゅうちょ)してしまう気がするのですが、経験してきた業務を分解してみると、可能性が広がることもあるのですね。

ほかにもこんな例があります。ある風力発電のベンチャー企業C社では、電力の売買担当者を求めていました。ぴったりの経験を持つ方は、大手電力会社にはいるのですが、その方々の現職での年収と比較して提供できる報酬に大きな隔たりがありました。

しかし、売買担当者の仕事内容をひもといていく過程で、あることに気付きました。

電力は、ためておくことができません。たくさんの電力が発生したときは、すみやかに、かつできるだけ高値で売り、足りないときはできるだけ安値で買って安定供給につなげる必要があります。「もしかするとこの仕事は、為替や株などの売買行為と似ているのではないか。金融業界で為替や株のディーリングを担当している方や、事業会社で資金運用をしている方なら、この世界で活躍できるのではないか」と。

そこで、出身業界にこだわらず広く門戸を開いて候補者を探してみたところ、異業界から20人以上の応募があり、うち3人が採用される結果となりました。採用された方々の出身業界は、メガバンク、生命保険、証券など金融業界でした。まさに上記の仮説通り、為替や株の世界でキャリアを磨いてこられた方々です。年収は3人とも半減。でも今でも「C社に来られて幸せです」と、いきいき働いています。

3人に共通していたのは、当初は「自身の経験は、同業界同職種でしか生かせない」と思いこんでいたこと。そして、毎日何億円規模のお金を動かすダイナミックな仕事は、ときにお客様に大きな損失をもたらすこともあり精神的に疲弊しておられました。転職したくても、「同業他社で同じ仕事に就くしかないだろうから……」と諦めていたところに、この風力発電の仕事と出合い「経験がフルに生かせそうだし、かつクリーンエネルギーの世界で世の中に貢献できること」にやりがいを発見されたとのことでした。

この2つの事例のように、自分自身でも気づいていない世界に自身の経験が生かせる場所があるというケースはまだまだ数多く潜んでいます。ぜひ、ご自身のやってきた業務を分解して把握してみること、その上で「同業界・同職種」の枠を頭の中から取り払って検討することをお勧めします。

自身の専門能力だけでなく「パーソナルスキル」に注目を

――すばらしいケーススタディーですね。しかし世の中には無数の業界があり、さらに多くの仕事があります。どの求人であれば自分の経験やスキルが生かせるのか、どうやって見極めていけばいいのでしょうか。

ビジネスパーソンのキャリアは、各業界や職種で磨かれる「専門能力」と、「人とのかかわり方(コミュニケーション力)」「仕事の進め方(ダンドリ力)」という3本柱を主軸に、作り上げられるものだと思っています。

どんなにスペシャルな専門能力を持っている人であっても、同じ部署の人や協力会社など、周囲の人たちとうまく協働できない人はその力を発揮できません。また、仕事の段取りが下手で、スケジュール管理能力が低い人も同様です。

この「人とのかかわり方(コミュニケーション力)」および「仕事の進め方(ダンドリ力)」は、業界を超えて持ち運びができる「ポータブルスキル」です。自身の専門能力だけに着目していると、同業界以外には目が向かなくなりますが、自分自身が持っているポータブルスキルに着目して過去のキャリアを見直せば、意外な強みが発見できるかもしれません。そのうえで、視野を広げてさまざまな求人を見れば、「ここならばポータブルスキルを発揮できそう」と気付ける可能性が高まると考えています。

いくら話したいことが多くても、面接でしゃべりすぎない

――少し話が変わりますが、「希望通りの転職ができない人」の中には、面接選考段階で不採用となり内定に至らないというケースも多いようです。これにはどんな理由が考えられますか。

私の経験値からですが、面接で落ちてしまう方の多くは「雄弁すぎること」がボトルネックになっているケースが多いようです。

例えば、「最初に自己紹介をお願いします」といわれて、20分以上、延々と話し続けてしまう方がいます。特にミドル世代以上の方々は、経験が豊富なだけに、自分をPRしようとあらゆる経験をすべて話したいという心理が働くのでしょう。話さなければ伝わらないと思うかもしれませんが、聞く側からすれば、限られた面接時間で自己PRだけで長時間を割かれると「しんどい」のが実感だと思います。

一つの質問への回答は、長くても3分以内。しかも、冒頭の自己紹介は名前と簡単な経歴紹介で十分、できれば1分程度で済ませたいところです。自己紹介やPR、職務経歴紹介など、聞かれそうな質問には、1~3分で答えられるよう準備しておくとよいでしょう。

そして、重要なポイントがもう一つ。あくまで「聞かれた質問にだけ答える」ことです。あれもこれも話したくなるでしょうが、ぐっとこらえながら質問の要点をとらえ、できる限り簡潔に回答するよう心がけてください。

相手がもっと深く聞きたいと思ったら、必ず深掘りした質問が出されますから、そのときに深く話せばよいのです。そのほうが、会話のキャッチボールが生まれます。どうしても話しておきたいことがおありの場合は、まずは簡潔に要点を答えたうえで、「もう少し補足説明させていただいてもよろしいですか?」と聞いてみるといいでしょう。

面接はコミュニケーションです。一方的にしゃべり続けていては相手に伝わりませんし、「この人は、話が長い、くどい……コミュニケーションが苦手な人」と判断される恐れがあるので注意が必要です。

――経験豊富なミドル層こそ、自身の魅力を簡潔に伝える練習をしたほうがいいのかもしれませんね。

その通りです。せっかくの経験、スキルなのですから、ぜひ効果的にアピールしてほしいですね。

そしてもう一点、気を付けたほうがいいと思うのは「態度」です。一次面接など選考過程の初めの方では、若手の人事担当者が出てくるケースがあります。そんなとき、一気に尊大な態度を取ってしまう方が意外に多く、驚かされることがあります。椅子の背にもたれる、腕を組む、脚を組む、「~だよね」などくだけた言葉遣いになる……などなど。人事担当者が若い方だとつい油断してしまい、無意識のうちに自分の部下と接しているような態度が出てしまう。そういうことは、避けていただきたいですね。

こう言ってしまっては身も蓋もありませんが、最終的には「人柄」が採否に大きく影響することは間違いないです。年齢に関係なく、人間らしい愛嬌(あいきょう)がある方は、経歴うんぬんよりも「この人と一緒に働いてみたい」と思ってもらいやすい。この人が入社したら、チームが明るくなりそうだな、ちょっとしんどい仕事も嫌がらず笑顔でやってくれそうだな、などと、入社後のイメージが湧きやすくなるようです。

一方で、経験やスキル、専門能力がどれほど高かろうとも、「人間味や愛嬌が感じられにくい」方は、結果的に企業から敬遠されがちです。既存社員とうまくコミュニケーションを取れると思えず、活躍できるイメージにつながらないようです。

企業の役員クラスなど、ポジションが高い人ほど、若手に対してもていねいで礼儀正しい人が多いと感じます。「実るほど こうべを垂れる 稲穂かな」――長く活躍し続けてきたミドル世代の方々にこそ、ぜひこの言葉を心に留めていただければと思います。


※この記事は日経電子版「NIKKEI STYLE」に掲載されました。CR40を運営するルーセントドアーズ株式会社代表の黒田真行が執筆しています。

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