30代以上の方々の転職を支援していて、最も多いお悩みの内容は「希望する会社に応募しても、なぜかことごとく不採用になる」とか、「応募したい会社が見つからない」というものです。逆に、人材を募集している企業からいただく相談は「応募者がまったく集まらない」「応募者はいても、魅力的な人材がいない」といったものがほとんどです。

企業側と求職者側のミスマッチはなぜこんなに多いのか? 今回は、「欲望の二重の一致」が起こりにくい転職市場の構造についてお話ししたいと思います。

「希望する職種」によって激変する転職の難易度

転職市場におけるミスマッチは、企業側・求職者側双方にとって悩ましい課題です。

  • 企業側=「人材を募集しているが、いい人材が採用できない」
  • 求職者側=「いい会社を見つけて応募をしても、不採用になってしまう」

ただ、これは「職種」によって非常に大きなばらつきがあります。厳密には、「職種」以外にも、

  • 企業側=「地域」「企業規模」「知名度」「業種」
  • 求職者側=「学歴」「経験年数」「スキル・資格」「転職回数」「退職理由」

など、多様な因子があるのですが、ミスマッチを生む最も大きな因子は、「職種ごとに異なる需給バランス」にあると言っても過言ではありません。

つまり、仕事を探す求職者側の視点であれば、「どんな職種で仕事を探すか?」を決めた時点で、転職成功の難易度がほぼ確定するということになります。これを、需給バランスや需給の量、仕事の性質でシンプルに分けると、図のような4分類になります。

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作図:黒田真行

A.ハイリスク・ハイリターンの「コントラクト型プレーヤー」

【職種例】 個人向け高額商品・サービス(住宅、リフォーム、生命保険、自動車など)の営業、セールスドライバー、個人向け金融サービス営業、店長候補(外食系)ほか

個人で生み出す成果が重視される高付加価値な職種で、固定給比率が低めで、成果型の報酬比率が高いケースが多いことから「ハイリスク・ハイリターン」という印象を持つ人が多いために、景気変動にかかわらず、いつも一定の求人需要がありながらも、希望者(人材供給)が少なく、常に人手不足になっている領域です。正社員・業務委託契約、場合によってはフランチャイズ型などの雇用形態でも募集されることが多く、転職サイトやエージェントからのスカウトも最も活発に行われています。

B.組織成果を求められる「エグゼクティブ」「スペシャリスト」

【職種例】 経営者、CFO(最高財務責任者)、M&A(合併・買収)スペシャリスト、知財・法務系スペシャリスト、経営企画・事業企画、ウェブ系開発エンジニア(プロジェクトマネジャー)、金融系スペシャリスト、経営コンサルタント、施工管理技術者、薬剤師ほか

組織としての成果を最大化するために、結果に対する強いコミットメントを求められるスペシャリストやエグゼクティブ領域の職種です。場合によっては、年収3000万円クラスの求人もある超高付加価値型の領域になります。

事業の中核をつかさどる職域ゆえに、求人件数は最も少なく、転職サイトなどの公開型の求人よりも、ヘッドハンターやエグゼクティブ専門エージェントが秘密裏に動いてマッチングするケースが多いのも特徴です。

求人件数は少ないものの、求められる経験やスキルに細かい条件が付くことが多いために、適合する求職者よりも求人(需要)のほうが多く、相対的には採用難といわれることが多いようです。ただ、いったん求人が公開されると、相対的に年齢が高めの採用事例が多く、年収水準が高く魅力的に見えることもあり、企業側から見ると募集要件の対象外の求職者から、大量の応募が殺到して混乱するケースもあります。

ビジネス系のエグゼクティブの場合、人材要件が言語化しにくいことや、後述のD領域との境界が不明瞭なことも、ミスマッチを発生させる要因となっています。

C.定型的なタスクを処理する「オペレーショナルプレーヤー」

【職種例】 ルートセールス、営業事務・一般事務、受付、プログラマー、販売・接客、警備・ビルメンテナンス・施設管理、コールセンターオペレーター、倉庫内・工場内作業員ほか

契約社員、派遣、アルバイト・パートも含めて、最も求人の数が多いのがこの領域です。手順や業務パターンがシンプルで定型的な業務や運用的な業務が多く、業務が生み出す期待利益に連動して、賃金水準も雇用の安定性も低くなりやすい領域です。

相対的に募集要件も緩やかなぶん、求人需要に対して対象となる求職者数も多く、D領域で転職先が決まらない人からの流入も加わるため、より一層デフレ化しやすい性質があります。

D.組織貢献型の「ゼネラリスト」「ミドルマネジメント」

【職種例】 法人向け営業(メーカー、商社、IT、サービス)、人事・総務、広報・宣伝、管理職(営業・管理・情報システム・企画各部門の部長・課長クラス)ほか

いわゆる正社員の転職に限定した場合、最も求職者数が多いのがこのD領域。総合職型の正社員として、組織貢献を求められるゼネラリストやミドルマネジメントの方々です。

高付加価値な組織成果を求められる領域でありながら、特に日本の場合、一貫したスペシャリストとしてのキャリアを積みにくく、「新入社員で配属されたのはA事業部の新規開拓営業、3年後にB事業部の既存顧客向け営業に転属され、10年目からは営業企画部門でリーダー」というように、組織の中での必要に迫られた経歴となり「なんでも屋ではあるが、なに屋とも答えられない」という状況に陥りがちな側面があります。

幹部選抜の競争率が激しく、それゆえに年齢が上がるほど求人需要が減少しやすく、ごく一部の人だけがB領域に進む構造になっています。さらに経済構造の変化も相まって、大半の方が社内・社外に関わらず「望まないキャリアチェンジ」を迫られるケースが目立ってきています。

また、大規模な組織になればなるほど、部下やアウトソース先に依存することが増えて現場から遠ざかりつつ、管理職となって賃金が上昇するためにかえって移動が難しくなるという、ダブルのマイナス効果もあります。

「過去の経験を生かしたい」という思いが逆効果に

「役職定年」「M&A」「業績不振」などを起点に、企業側が戦略的な人材の代謝を進めるために、これまで組織に貢献してきた人が、突然転職市場に出ることになった場合、上記の構造の影響で多数のミスマッチが生まれます。

特に、正社員に限定すると、「DからBに移動したい」「Dのままでキャリアを磨きたい」という希望を持たれる方が多いのですが、きわめて高い要件ハードルのBと供給過剰なDでは、その希望を受け入れられる余地は少なく、結果的に、希望の有無にかかわらず、需要過多のAや需要の絶対数が多いCへの移動を促される構造になっています。それでもBやDの領域を志向する場合は、高い競争率を突破する戦略と行動が必要になります。

転職活動をされる方には「これまでやってきたキャリアを生かしたい」という思いを口にされる方が多いのですが、特に40代を超えてこれまでやってきたキャリアを生かすには、「会社を超えても通用する競争優位なスキル水準を獲得するために、これまでの2倍、3倍の努力が必要になる」というのが実情です。

「これまでのキャリアを生かすこと」が、ご本人の頭の中では「過去やってきたレベルの努力を続けること」「過去の待遇水準をキープすること」と同義語になっている方の場合、激しい競争を勝ち抜くにはパワー不足になる可能性が極めて高くなってしまいます。

過去の経験を超えて、競争に勝てる人の共通点

ただ、どれだけ競争が激しくても、ご自身の希望通りの働き方をまっとうされる方も必ず存在します。転職支援という仕事を通じて多数の方とお会いしてきた経験から、競争に勝つ人の共通点をいくつかご紹介します。

(1)「過去の経験は負債。過去を超えるキャリアをつくる」という思考

これまでのご自身の経験を「資産」ではなく「負債」だととらえて、過去のキャリアを「生かす」のではなく「超える」という考え方をする方。

大手情報システム開発会社に営業職として勤務していたAさん(41歳)は、初めての転職活動で面接に行った会社で、これまでの会社で評価されてきた経験がまったく評価されていないことに気付き、驚愕(きょうがく)されたそうです。しかし、ゼロリセットでやり直すのは時間がかかりすぎると考え、経験値をバラバラに分解、使えるものと捨てるものに分別し、「使えるキャリア資産だけをベースにしながら、いかに自分の過去を超えられるかにチャレンジしよう」と思ったそうです。この方は現在、通信系のベンチャー企業で社長室長(執行役員)として活躍されています。

(2)「謙虚に学び、大胆に行動する」バランス感覚

大手のインターネット関連会社を経て、大学のキャリアセンターで学生の就職支援をしているCさん(39歳)は、まったく別の世界に飛び込む転職をされました。もともと人事として新卒採用をしていた経験はありますが、そもそもの業種の落差からくるカルチャーギャップ、受け入れる企業側と送り出す学校側の違いなど、当初は相当困られたようです。

しかし、3年目に入って課長に昇進された理由を聞くと、「異文化に飛び込んだ者として、いかに謙虚に学ぶかを心がけました。でも年齢も年齢なので、成果を出すための提案や行動は年齢なりに物おじせずにやり切りました」。インプットは謙虚に、アウトプットは大胆に。結果につなげていくこのバランスも、ひとつの共通点です。

(3)「自分の人生にとって本当に大切なものを絞り込む」勇気

財産を持てば持つほど守ろうとするのが人情です。仕事に関しても同じで、仕事の醍醐味、役職、年収、会社の知名度、部下の数、通勤の便など、いったん自分にとって住み心地のいい場所や条件を手に入れてしまうと、転職を迫られたとしても、どれもこれも全部守りたいと考えるのも不思議なことではありません。

中堅広告代理店でエグゼクティブディレクターをしていたBさん(44歳)は、応募した会社から軒並み不採用を突き付けられた結果、「すべてを望んでいては身動きが取れない。今後、元気に働ける20年で得たいものを3つだけに絞り込んだ」そうです。そして、一番重視した“モノづくりの現場の第一線で能力を生かすこと”に絞り、食品メーカーのパッケージデザインのマネジャー職に就かれています。年収は前職から半減しても、非常に高い満足度で働いています。


※この記事は日経電子版「NIKKEI STYLE」に掲載されました。CR40を運営するルーセントドアーズ株式会社代表の黒田真行が執筆しています。

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