ある2人の転職事例を紹介します。なお、守秘義務があるため、本筋には関係のない多少の脚色を行っています。

1人目は、大手家電メーカーの管理部門で企画系の仕事をしていたAさん(47歳)。

もう1人は、まったく同じ会社・同じ部門で仕事をしていた、Aさんより10歳年上のBさん(57歳)です。

Aさんの場合

Aさんは、転職の際、転職マーケットの事前調査をまったくやらずに転職活動を行いました。大手家電メーカー時代と同等の条件にこだわり、エリアは東京の山手線の内側、業界は同じ家電メーカー、役職も部長以上、年収は1200万円以上といった希望でした。

前にも述べた通り、そんなAさんにとって都合の良い条件の求人があるはずもなく、私は話だけを聞いてしばらく置いておきました。私以外にも、人材紹介の会社などに登録して求人を探しましたが、どこにも条件に見合う求人はなく、どこからも紹介案件はありませんでした。

しょうがなく、Aさんは自分で求人サイトなどでも探しましたが、当然ながら条件に合う求人はありません。何度か、給料の表記のない求人に応募しましたが、給料について聞くと、希望の半分の600万円などと言われ、自ら辞退したそうです。

半年経って、多少条件を緩和しましたが、それでも希望の求人はなく、1年経っても転職は決まりませんでした。転職活動をしていると言っても、条件に合う求人がないのですからやることがなく、親族の会社の手伝いを始めました。社員ではなく、あくまでも手伝いです。

47歳で、ブランクが1年以上になり、Aさんの転職はますます難しくなっています。求人を出している企業も、なかなか転職が決まらないAさんに対して、「何か問題があるのでは?」と思うようになるからです。

Aさんは、現在も転職活動を続けていますが、いまだに細かい条件をつけ、それらにこだわっているため、状況はどんどん厳しくなっています。

転職活動を始めたころに自ら辞退した求人について、「あれよかったな」と、ちょっと後悔しているようです。しかし、もうそのときに戻ることはできません。

Bさんの場合

一方のBさんは、Aさんより役職は上でしたが、年齢が57歳ということもあり、最初から転職活動は厳しいものになると覚悟していました。そのため、ある程度、事前調査をやってから転職活動を行いました。

転職の際のエリア、業界、職種、年収にもこだわりはなく、転職活動を始めたときから、いろいろな業界の企業の面接を受けていました。

大手企業にいたにもかかわらず、企業規模にもこだわりはなく、職種も、営業系の部長のポジションや、それより下のマネジャークラスの求人であっても話を聞きに行きました。

転職マーケットの調査・分析だけでなく、並行して自己分析も行っており、自分の強みは、どんな商売であっても、状況を正確に分析して、変化の材料を集めて、そこに戦略の勝ち筋を見つけていくことだと言っていました。そして、「できれば、それがやりたい」という希望を熱く話していました。

さらに、エクセルやパワーポイントも自由に使えるので、部下がいなくてもいいとまで言っていました。

転職活動を始めてから●カ月後、Bさんの転職先が決まりました。中堅住宅メーカーの経営企画室長というポジションで、年収は前職の3分の2、1500万円から1000万円ぐらいに下がりました。企業規模はだいぶ小さくなりましたが、それでもれっきとした上場企業です。

職種は、経営の企画系と同じですが、業界は家電から住宅とまったくの畑違いへ。商慣習も違えば、風土も違うところへの転職となりましたが、中堅住宅メーカーの会長からとても気に入られ、会長直轄の未来戦略を描く経営企画室長として三顧の礼で迎えられました。

相思相愛で入社されたBさんは、現在もその企業で活躍されています。

「同業界、同職種」希望のワナ

同じ大手家電メーカーからの転職でも、これだけの「転職格差」があります。スタート地点はほぼ同じだったにもかかわらず、Aさんは1年間転職活動を行っても転職先が決まらず、Bさんは●カ月で自分が活躍できる企業、職場を見つけることができました。

47歳と57歳ですから、一見すると47歳のAさんのほうが年齢的には転職に有利だと思われるかもしれませんが、結果は逆でした。

Aさんの転職がうまくいかなかったのは、率直に言って、条件を細かくたくさんつけたからです。しかも、その条件が大企業勤務時代と同じ。

求職者の多くは、前職と同じ業界への転職を希望します。

「〇〇業界で何十年と仕事をしてきたのだから、自分の能力を活かせるのは〇〇業界しかない」

こう考えてしまうのです。そして、職種も同じです。

「△△職を長く経験して多少なりともスペシャリティを磨いてきた。△△職の仕事なら求職もあるだろうし、自分も活躍できるはずだ」

自分の強みは、「同業界の同職種にある」と考えているため、転職の際も同業界の同職種を希望する人が多いのです。

「自分がこれまで積み上げてきたものを捨てたくない」

こうした心理も間違いなくあるでしょう。Aさんは、「家電以外は考えられません」と言っていました。自分が積み上げてきた、せっかくのキャリアを今さら捨てられるか、という気持ちになるのもよく理解できますが、そこにワナがひそんでいるのです。

このワナにはまらないためにも、事前の転職マーケットの調査が不可欠なのです。

Bさんは、事前に転職マーケットをある程度調べたことで、現在と同じ年収をもらうことはほぼ無理だろうと分かっていました。3分の2、下手をしたら半分になることも覚悟していたかもしれません。

こうした転職マーケットの情報や知識を早期に学んでいたからこそ、早い時期から業界にも、職種にも、企業規模にも、こだわらずに話を聞きに行ったり、面談に行ったりできたのだと思います。

転職に失敗する人に共通するポイント

では、Bさんにはこだわりは1つもなかったのでしょうか。そうではありません。きちんと、こだわるべきポイントにはこだわって、転職活動を行っていました。

それが、「自分が必要とされる場所はどこか」「自分が活躍できる場所はどこか」といったことです。

Bさんは、エリアや業界、職種、役職、年収といった表面的なレイヤーでのこだわりは捨て、1つ上のレイヤーと言えるかもしれませんが、別のもう少し抽象的なレイヤーでこだわったのです。

表層的な条件にこだわるのか、仕事の中身や自分のやりたいことにこだわるのか、と言い換えてもいいかもしれません。

転職がうまくいかない人は、「東京でないと」とエリアにこだわったり、「年収は最低でも800万円以上」とお金にこだわったり、「課長以上」と役職にこだわったりします。こだわるポイントは人それぞれですが、どれも表層的な条件である点は共通です。

これに対して、転職がうまくいく人は、こだわるポイントが、そうした表層的な条件ではないのです。


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