転職活動のお手伝いをしている中で、履歴書や職務経歴書の書き方、あるいは面接の事前練習のご相談を受ける機会がよくあります。そこで気になることの一つに、「自己PRの壁」があります。ただでさえ慣れていない転職活動で、どう自分をアピールすべきかわからないというのは当然ですが、「雇う側の視点」を意識するだけで、見違えるほど強いプレゼンテーションに変化することがあります。今回は、そのポイントについてお話ししたいと思います。

「雇われる側の視点」に慣らされていないか

「会社の業績が悪化した」

「経営体制の変更でいきなり解雇通告を受けた」

「人間関係のトラブルで精神的にいづらくなった」

転職のきっかけになるできごとは、人それぞれ、会社それぞれ、実に多様です。特に、自分の意思で計画的に検討した転職でない場合、いきなりの転職活動でどう動けばいいかわからない方もたくさんいらっしゃいます。

履歴書や職務経歴書などの書類の中はもちろん、無事、面接にたどり着くことができた場合、そこでどう自分をPRすればいいのか、まったく見当がつかないということも多いでしょう。「あまり大げさに自慢し過ぎてもいけないし、かといって控えめ過ぎてもアピールにならない」と考えた結果、起こった事実ややってきたことを淡々とありのままに列挙する、というパターンも非常に多く目につきます。

会社の部署名や役職名、プロジェクトの固有名詞や専門用語を3枚、4枚と書きつづった職務経歴書などは、息苦しいくらいに文字量が多くなってしまい、大人数の応募書類に目を通す採用担当者にとってマイナス印象を与えるリスクもあります。できるだけ情報を絞り込み、読みやすく整理することはもちろん重要なのですが、もう一点、気を付けていただきたい点があります。

学校を卒業し、就職してから長く会社員生活を続けていると、どうしても「雇われる側の視点」に慣らされてしまいがちです。いったん人を雇用すると簡単に解雇できないし、生涯賃金として考えると大きな投資になる採用に、リスクがある人を採用したくないという心理を持つ「雇う側の視点」と大きなズレが生まれます。このズレがあるままだと、いくら書類を見やすく整理しても、あなたの魅力がダイレクトに伝わらないということにもなりかねません。

雇う側に「投資対効果」を説明できるか

「雇われる側の視点」に慣らされた自己PRに共通する課題の一つは、プロセスPRになりやすいということです。

自分が担当した業務・役割はどのようなもので、それに対してどのように向き合ったのか、何をしてきたのかということが自己PRの中心になります。もちろんインターネット上の「職務経歴書の書き方ガイド」に従って、その仕事を通じて得た結果・業績も記されているのですが、全体として、

自分は仕事にどのように向き合う人間か?

をアピールする文章の量が多くなる傾向があります。

一方で「雇う側の視点」で最重要視されるのは、その人を採用することで発生する「投資対効果」です。つまり、

この人はどれくらいの成功確率でどれくらいの結果を生み出してくれるのか?

という観点がポイントになります。

同時に、賃金に対しても、感覚の違いが明確に表れます。

前の会社で、これだけ「給与」をもらっていたのだから、最初からその水準の「給与」をもらいたい

という「雇われる側の視点」と、

どれくらいの成果が出るかわからないのだから、結果が出てから「報酬」を確定させたい

という「雇う側の視点」の対立です。

雇う側が「結果」「後付け報酬」を重視しながら自らのリスクを回避しようとする中で、雇われる側は「プロセス」「前払い給与」を重視しながら自らのリスクを回避しようとする立場の違いから起こるジレンマが起こりやすくなるわけです。

あなたが市場において希少なキャリアや需要に対して供給が少ない仕事をしているなら「雇われる側」が優位になりますが、もしその逆なら「雇う側」が優位になるので、「雇う側の視点」に合わせた売り込み方、自己PRが不可欠になってきます。だからこそ「雇う側の視点」に立ち、期待される「投資対効果=報酬対業績」を、あなたがいかに高い確率で実現できるかをプレゼンテーションするスキルが重要になるわけです。

「自分が何をやってきたか」を説明する自己PRというよりは、「雇う側の視点」に立って、自分自身が「いかに低リスクで業績を上げられる人材か」というメリットとリスクを説明するセールスプレゼンテーションと考えたほうが近いかもしれません。

自分が自分を雇ったら、いくら払えるか

「雇われる側の視点」で最も危険なことは、「前職でもらっていた給料の金額が、自分の価値を表す絶対相場」、あるいは「次の会社が当然支払うべき義務的金額」というセルフプライシングの呪縛に取り憑(つ)かれてしまうことかもしれません。

転職のタイミングや相手先企業の規模や設立年数、あなた自身の年齢など、因子の変化によって、現実には刻々と変化するのがキャリア相場の実態です。比較的処遇の安定した大企業で、長く働けば働くほど、自己の相場認知が高水準で固定化してしまう恐れがあります。

だからこそ、特に転職を考えるタイミングにおいては、「給料をもらう立場・もらってきた金額」ではなく、「報酬を支払う側の目線・妥当な支払額」を想定して、自分自身の値付けを行う努力をすべきだと考えます。率直に言うと、自分が応募先の経営者だったなら「その立場になりきった上で、現在の自分をいくらで買うだろうか」と自問自答してみるということです。

もし本当に結果を出す自信があるのであれば、面接の段階などで「結果を出した従業員に連動した報酬を支払う制度を持った会社かどうか」を確認し、信頼するに足る人事評価システムを持っている会社であれば、結果を出してから自身の報酬を高めていく交渉をしたほうが得策かもしれません。


※この記事は日経電子版「NIKKEI STYLE」に掲載されました。CR40を運営するルーセントドアーズ株式会社代表の黒田真行が執筆しています。

cr40