Eさん(37歳)は、超一流私立大学を出て、大手企業に入社した女性です。これまでに営業や広告制作、制作管理など、いくつもの仕事を経験してきました。現在は、自分の希望で移った広告企画の仕事をしているのですが、これが思っていたほど肌に合わず、かつ上司とも合わないため転職を考えるようになり、私のところに相談に来ました。

どんな仕事もそつなくできたことが裏目に

頭も良く、コミュニケーション能力も高い。仕事の能力も十分に高そうなので、どういう仕事をしたいのかを聞いて、それに合った求人を紹介しようと思ったのですが、この方は「どういう仕事をしたいのか」という軸がありませんでした。

職場の雰囲気がいいとか、そこそこ知名度がある会社がいいとか、企業規模も小さいよりは大きいほうがいい、年収も高いほうがいいといった漠然とした希望しかなく、転職先や仕事の具体的なイメージがないのです。

実は、求職者には、こういう「転職したいけれども、やりたいことは特にない」という人がとても多くいます。

Eさんのこれまでの仕事経験から何かヒントを得ようと、「仕事で一番うれしかったことは何か」など、いろいろと聞いたのですが、やはり、「これ」という職種や仕事のイメージは見つけられませんでした。

分かったのは、与えられた仕事をがんばってやってきたこと、それぞれの仕事でそれなりの成果を出してきたこと。その一方で、スペシャリティと呼べるようなスキルは何もないということも分かりました。

会社に言われるがままに働いてきたため、姿勢が常に受け身で、周囲に流されやすく、自分の軸がないのです。みんなで毎日飲みに行くような職場ではそれに付き合い、残業が当たり前の職場では残業をいとわず働き、逆に、仕事が終わればすぐに帰るようなドライな職場では自分もそうする。まるでカメレオンのように、職場に合わせて自分を変えることができてしまうのです。

Eさんにしてみれば、どんな職場であっても、それに合わせてうまくやってきたという自負があります。ポジションも給料も順調に上がり、現在の年収は700万円超。会社から与えられた数々の仕事をそつなくこなすことができたがために、自分の将来やスペシャリティ、やりたいことを特に考えなくてもすんできてしまったのです。

しかし、35歳を超えた転職となると、ほかの人にはないスペシャリティなり、「これをやりたい」という熱意なりがないと難しいのです。

まず、求人の紹介ができません。なぜなら、どんな企業のどんな職種を紹介しても、「ああ、いいですね」と言いながら、「じゃあ紹介しようか」と言えば、「うーん、もう少し考えてみます」ということになるからです。

自分の中に「こういう仕事がしたい」というものがないため、「やりたい」という気持ちが心の中に生まれてこず、ゆえに、どの求人も良さそうに見えるけれども、自分に本当に合っている求人がどれなのか、自分でも分からず、判断ができないのです。

年齢とともに居場所がなくなる現実

「こういう仕事がしたい」「私は〇〇屋として生きていくんだ」といった自分の軸がない人は、判断を先送りにしてずるずると現状維持を続けてしまう傾向があります。

Eさんも、現在の仕事と職場に不満がありながら、またカメレオンのようにその環境に合わせることで、周りに流されてしまいつつあります。

しかし、こうしたことをいつまでも続けることができる保証はどこにもありません。会社というのは基本的にピラミッド組織ですから、年齢とともに上に上がっていけばポジションは少なくなっていきます。

上のポジションに上がれなくても、「自分はこの領域のプロとして仕事をしていく」という専門性やスペシャリティを見つけていれば、その後の仕事人生もハッピーになるでしょう。しかし、それがないと仕事における充実感や満足感、達成感などが味わえません。

会社も、専門性やスペシャリティがない40代、50代を持て余し気味です。上司も自分より年上の部下をもつのは、できれば避けたいと思っています。Eさんのような人は、次第に会社で行き場がなくなっていくのです。

誤解を恐れずに言えば、Eさんのように超一流大学を卒業して、地頭も良く、大企業に入社して長く働いてきた人であっても、何かの理由でその大企業を辞めざるを得なくなったら、ワードやエクセル、パワーポイントは使える一般事務職として、時給1400円の派遣社員になってしまう可能性だって十分あるのです。しかも、時給は年齢を重ねるごとに下がっていきます。

35歳ぐらいまでは、今後自分がどうなっていくか、45歳になったとき、50歳になったときにどんな仕事をしているかなど、あまり考えません。現在の状態がこれからもずっと続くと思っています。

ちょっと10年前のことを振り返ってみてください。おそらく、10年前のことであっても、どこで何をしていたか、つい昨日のことのように思い出せるのではないでしょうか。

つまり、10年後に振り返ったときも、今日のことがつい昨日のことになります。10年前のことはつい昨日のことだと思う一方で、10年後ははるか遠い未来だと思っている。周りに流されやすい人は、時間の経過に対してそれだけ鈍感になっているということなのです。

転職市場は、35歳、40歳、45歳、50歳、55歳と5歳刻みで求人数が半減を繰り返します。ミドルの転職は、年齢が上がるほど選択肢が減るのです。周りに流されやすい人は、こうした厳しい現実に目を向け、危機感をもつ必要があるでしょう。

「私を買ってください」では転職できない

Eさんのような人は、とりあえず良さそうだと思った求人に応募しても、残念ながら、まず採用されません。なぜなら、志望動機を語れないからです。

「こういう仕事がしたい」といった志望動機は、これからの未来のことです。これに対して、履歴書や職務経歴書に書かれた出身高校や大学、勤務した企業や部門、職種などは過去のことです。

「〇〇大学を卒業しました。△△会社で□□の仕事や▽▽の仕事で成果を出しました。年収はいくらです。私を買ってください」

志望動機を語れない、こうした「私を買ってください」型の転職活動になってしまう人が多くいます。

しかし、企業が本当に知りたいのは、「自分たちの会社に入って、その人が何をしてくれるのか、何ができるのか」という未来のことです。未来を知るために、何ができるのかを予測するために、過去の実績を参考にしているのであって、過去を買っているわけではないのです。

「こういう仕事がしたい」「こんな自分になりたい」という目標がないと、ただ過去を売るだけの人になってしまうということです。

大企業に勤めている人は、転職マーケットでの自分の価値はまず分かりません。大企業に勤めている間に、転職マーケットで自分がいくらの価値があるのかという「市場価値センサー」が麻痺してきて、10年もいると完全に壊れてしまうからです。

一度壊れてしまった市場価値センサーを直すのは至難の業。だから大企業にいながらも自分の市場価値センサーが壊れないように常にメンテナンスをしておく必要があります。大企業でもらっている年収ではなく、転職マーケットで自分がいくらの価値があるのか、常に外の状況にアンテナを立てておくことが大切なのです。

市場価値センサーが正常に働いていれば、自分の市場価値を上げるためには、これを勉強しよう、このスキルを磨こう、この能力を上げようという現実と理想とのギャップが見え、向上ポイントが分かります。

そして、自分の市場価値を上げる中で、専門領域ができ、特別なスキルや能力が身につき、それを活かせる職種や仕事が自ずと見えてくるものなのです。

まとめ

何が悪かったのか

「『自分は○○屋さん』『自分はこういう仕事がしたい』『自分はこうなりたい』といったものをこれまで考えてきておらず、転職を前にしても考えていなかった」

どうすればよかったのか

「『市場価値センサー』を磨いて、自分自身で決めた方向に自らを高める努力が必要だった」


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