Fさん(44歳)は、大学を卒業して大手証券会社に入り、約15年間働きました。中規模支店の責任者だった38歳のとき、大学時代の体育会系の先輩に声をかけられ、その先輩の父親が社長を務める社員数300人規模の不動産仲介会社の管理部長に転職しました。年収1200万円から1400万円へのキャリアアップ転職でした。

年収1200万円への強いこだわり

転職後、会社は順調に成長していたのですが、M&A仲介会社から買収の話が舞い込みます。買い手は同業の大手企業。オーナー社長が買収されることを決断し、交渉を任された管理部長のFさんは、買われる側の担当者として見事にM&Aを成功させました。

ただ、M&A後の会社に管理部長のポストはなく、社長の資産管理会社で仕事を続けることをすすめられましたが、事業をもたない会社に自分がやるべき仕事がないことは明らかだったため、丁重に断ります。

Fさんが転職活動を始めたのは、退職の半年前。43歳でしたが、大手の転職エージェントに登録すると50社以上の求人を紹介されました。「求人は意外にあるものなのだな」と思ったと言います。

自分の希望条件に近い上場企業3社に応募しましたが、残念ながら一次面接で不採用。在職中の最後の半年間は非常に忙しかったこともあり、応募したのはこの3社だけでしたが、退職して本腰を入れれば数カ月で転職できると考えていました。

ところが、3カ月経っても転職先が決まりません。紹介される求人も激減したので、自ら求人サイトを探しますが、希望条件に合った求人はほとんどありません。そんな八方ふさがりの状況で、私のところにも相談に来られました。

話を聞くと、3カ月で応募した企業は50社以上。その7割が書類選考で不採用、残りの3割が一次面接で不採用とのことでした。

Fさんとの面談で印象的だったのは、年収への強いこだわりです。

「1400万円は無理としても、証券会社時代の1200万円は最低でもほしい。そのまま勤めていたら今頃は1500万円にはなっているはずなので、これでも大幅に譲歩しているつもりです。自分を安く売るつもりはありませんので、ぜひ良い案件を紹介してください」

どういう職種や仕事をしたいのかを聞くと、「経営企画や総務、人事などの管理部門でのマネジメントには自信がある」とのこと。ただ、「管理系全般、何でもできる分、これだと自信をもって言える専門職種はない」とも。

私も何社か紹介しましたがFさんは辞退され、疎遠になっていた半年後、改めて相談したいとやってきました。Fさんの話によると、前回会ってから間もなく、中堅の建築機器商社で経営企画室長として採用され、年収も希望通り1200万円の職を得たそうです。

ところが、実際に勤務してみると、3カ月目に実質年収ダウンの固定給制度への切り替えを迫られ、「6カ月だけ」と聞いていた契約社員の雇用契約も、よほどの業績をあげなければ正社員契約に変更できないと告げられます。

採用時と話が違うので、人事部長に抗議のメールを送ると、翌日、半日間缶詰状態にされ、パワハラまがいの対応を受けます。直属の上司の態度も豹変するなど、まさにブラック企業そのものだったそうです。

「時間を味方につける」考え方

Fさんのように、最初の年収や肩書にこだわる人も多く見受けられます。しかし、「年収1200万円」や「部長」「室長」など、入社時点の最初の年収や肩書にあまりにこだわると、転職先の選択肢を大幅に狭めることになり、求職者にとっては損になることが多いのです。

ギブ・アンド・テイクの関係で言うと、年収1200万円」や「部長」「室長」といったテイクを先に求めてしまっているのです。逆に、ギブを先に考えられる人は、「まず自分を使ってみてくれ」と言い、「成果が出たら年収を1200万円に」とか、「結果次第で部長にしてほしい」と言います。先にほしいものを「テイク」するのではなく、まず結果を「ギブ」してから「テイク」をもらおうとします。

自分に自信がある人ほど、「年収800万円でもいいです」と、「その代わり、1年後に売上を1・3倍以上にしたら1000万円に、1・5倍にしたら1200万円にしてもらえませんか」というような交渉を行います。

「名刺の肩書にはこだわりません。ただ、これこれを決める権限だけはください」

「使える費用は1000万円でかまいません。ただし、使い方は私に任せてください」

このようなことを言う人は、仕事をする気が満々、結果を出す気が満々なことが相手に伝わります。

他方、年収1200万円にこだわる人に、「どういった業績をあげられますか」と聞くと、

「それはやってみないと分かりません」

「できる限りはやってみますが……」

など、お茶を濁すような解答ばかり。これでは、企業は採用したいとは思わないでしょう。

仮に、最初の年収が800万円だとしても、1年に100万円ずつ上がれば、5年で1200万円になりますし、その後も長く働き続けることを考えれば、その差はそれほど大きなものではありません。

こうした「時間を味方につける」考え方ができる人は、転職先の選択肢の幅が広がりますから、相思相愛の転職になる可能性も高まります。

逆に、最初の年収や肩書にこだわると、良縁を逃す可能性や、Fさんのようにブラック企業に引っかかる可能性が高まるのです。

求人票には良い条件ばかりを書いて、実際に入社してみると違っていたという企業も中にはあります。特に慢性的な人手不足の企業にその傾向がありますので、求職者は注意する必要があります。

まとめ

何が悪かったのか

「年収に強くこだわりすぎた」

どうすればよかったのか

「転職後を長期的な視点から考えるべきだった」
ブラック(気味の)企業はそうした転職者の「焦り」につけこんでくる場合もある。


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