Gさん(35歳)は、広告系の企業の営業課長として実績を残してきました。年収は700万円。もっと大きな仕事に挑みたい、と節目となる35歳を目前に、さらなるキャリアアップを目指して転職活動を始めます。

キャリアアップ転職に「大成功」のはずが……

見つけたのは、同じ広告業界の企業の営業部長職でした。書類選考を無事に通過し、一次面接も好感触。最終面接はその企業の社長でしたが、営業にとってお客さまがいかに大事かという話で盛り上がり、その場で採用が決まりました。

仕事は同じ広告業界の営業ですから自信があり、直近の実績も素晴らしいものであったため、年収は700万円から1000万円に、役職も課長から部長へと見事なキャリアアップ転職となりました。Gさん自身、大変に喜んでいました。

ところが、実際に勤め始めると、前職とは大きな違いがありました。

これまでは、顧客志向でお客さんに寄り添うことで評価され、何度もリピートしてもらって業績を上げていました。転職先の企業でも、こうした営業活動を行おうとすると、社長に次のように言われてしまったのです。

「なぜ、既存の顧客のところばかりに行くんだ。大切なのは、新しいお客さまを見つけることだろう。新規顧客こそ大事なのだから、どんどん新しい企業を回ってほしい」

Gさんにとって、これは想定外のことでした。営業と言えば、お客さまと深い関係をつくり、お客さまのことをよく知り、お客さまの立場に立って一番ふさわしい提案を行うことで喜んでもらうことだと思っていたので、まったく知らない企業を回って営業することになるとは予想もしていなかったのです。

同じ広告業界だから、同じ営業方法でうまくいくだろうと高を括っていました。

また、最終面接で社長と「お客さまこそ大事」という話で盛り上がったことで、自分の営業への姿勢ややり方を理解してもらったと思っていたのですが、実際には、既存顧客こそ大事と考えるGさんと、新規顧客こそ大切と考える社長では、同じ顧客志向、顧客第一でもまったく違っていたのです。

最終面接では、両者が自分にとって都合のいいように相手の話を理解していたため、この違いが両者にも分からなかったのです。1時間程度の面接では、こうしたすれ違いや理解不足が起きることはよくあります。

Gさんは社長の方針に従って、何とか新規顧客を獲得しようとがんばりましたが、これまでにやったことがなかったこともあり、まったく結果が出せません。2カ月、3カ月と経過すると、あせりも出てきます。

それでも何とかがんばって営業活動を続けていたのですが、とうとう精神的に参ってしまい、うつ病と診断されて半年で退職することになってしまったのです。

年収や役職、企業規模よりも大切なこと

転職の成功と言うと、年収が上がることや役職が上がるキャリアアップ転職ができることだと思っている人が多くいると思います。しかし、Gさんのように、年収や役職が上がっても、転職が成功したとは言えない人たちも多くいるのです。

では、何が転職の成功かと言えば、それは人によって違うのではないでしょうか。3年間無職だった人なら、とにかく入社できれば成功かもしれません。長く働ける企業に入ることが成功だと考える人もいるでしょう。だから、自分にとって「転職が成功した」と言える状態はどういう状態なのか、自分なりに考えて定義しておくことが重要になります。

しかし、多くの人は年収が上がることや役職が上がること、より規模の大きい企業や有名な企業に入ることが成功した転職であり、年収が下がったり、役職が下がったり、企業の規模が小さくなる転職は、失敗だと考えています。

大企業を辞めて、年収1500万円から500万円の釣り具職人に転職すると、周りは「かわいそうに」という目で見ますが、本人は大好きな釣りを仕事にでき、ルアーや釣り竿づくりもできるし、休みの日は海へ川へと釣りに行ける場所に住めるから、年収が3分の1になっても、「とても満足のいく転職ができた」と思う場合だってあるわけです。

本来、価値観は人によって様々です。どんな仕事をしたいか、どんな働き方をしたいかも違います。自分が仕事をするうえで、働くうえで、本当に大切にしたいものは何かを考えることなく、年収や役職、企業規模などで転職先を決めてしまう。

そして、カネ、カネ、カネで転職した人の多くは、「めちゃめちゃ満足のいく転職ができた」とは残念ながら思っていません。心理的な満足度のような本来大切にすべきものが忘れられた転職は、不幸な結果になることが多いのです。

Gさんも、目先の年収や役職アップに目を奪われてしまい、自分が働くうえで大切にしてきた「顧客との関係を深めて喜んでもらう提案を行う」という営業が本当に転職先でできるのかの確認を怠ってしまいました。

誰もやったことがない新しいテーマに挑戦したい、人に期待されて働きたい、もっと多くの人に喜ばれたいなど、自分の心が満たされることは何なのか。自分がいかに機嫌よく働き続けられるかということも転職では大事なことなのです。

こうした自分の物差しがないと、転職の成功を自分なりに定義していないと、幸せな転職はできません。そして、これらを考えていないから、年収や役職、企業規模などの表面的な条件に目を奪われてしまうのです。

まとめ

何が悪かったのか

「業務内容に関する情報不足と、転職前にその確認を怠った」

どうすればよかったのか

「営業と言っても、具体的にどういう業務を行うのかを詳しく聞き、そのうえで自分の希望する、得意な営業スタイルを面接時に伝えるべきだった」


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