必ずしも、ここに書かれたものだけがポータブルスキルなわけではありませんが、専門知識・専門技能以外に、自分にどんな強みやスキルがあるのかを考えるのに役立つと思います。

たとえば、前に紹介した「同じ大企業からの転職で明暗を分けた」事例のBさんは、自分の強みを「状況を正確に分析して、変化の材料を集めて、そこに戦略の勝ち筋を見つけていくこと」だと自己分析していました。これが、Bさんの「仕事のし方」のポータブルスキルなのです。

「人との関わり方」でも、社長や取締役の考えを忖度するのがうまく、それを部下にそれとなく伝えるのが得意な人がいるかもしれませんし、逆に、現場の考えや気持ちを社長や取締役に伝えて理解してもらうのが得意な人もいるかもしれません。

社内の根回しがうまい人もいれば、社外の人脈づくりに長けている人もいるでしょう。

ポータブルスキルは、これまでの仕事経験で培われた専門知識・専門技能以外の、異業界、異職種でも通用する、横展開できる自分の強みであり、スキルのことなのです。

ただ、こうしたポータブルスキルは、あまり意識してこなかった人には、自分のことでありながら、「何が自分のポータブルスキルなのか」が分からないものです。

人材サービス産業協議会のホームページでは、簡単な質問に答えることで、自分のポータブルスキルをセルフチェックできるツール(http://sp.j-hr.or.jp/)も用意しています。自分のポータブルスキルが何かよく分からないという人は、一度チェクしてみると、参考になるヒントが見つかるかもしれません。

ポータブルスキルのセルフチェックの結果は、100%の円グラフで表され、パーセンテージの高いものがその人の強みです。

ただ、どれもが10%か、15%になってあまり差がない結果になった人は、どれが強みなのか判然としないということもあります。このツール自体がまだ進化の途中なので、あくまで参考程度と考えてください。

また、自分の仕事ぶりをよく知っている人に相談に行き、自分の強みやポータブルスキルが何かを聞くという方法もあります。

たとえば、元上司や同僚のところに行ってそれらを聞けば、「君は粘り強くて、なかなかくじけないよね」「壁があっても何とか工夫をする力が人より優れているよね」などといった評価がもらえるかもしれません。こうした評価から、自分の強みやポータブルスキルを見つけることもできるでしょう。

では、どのようなポータブルスキルが、異業界、異職種への転職に活きるのでしょうか。いくつかの事例を見てみましょう。

事例10)「女性マネジメント」で転職して大活躍したKさん

生保の営業部長から食品メーカーの品質管理部マネジャーへ

Kさん(52歳)は、東京のある生命保険会社の営業部長でした。そのKさんが転職したのは、滋賀県にある食品メーカーの品質管理部のマネジャーです。いわゆる「Uターン転職」でした。

これだけ見ると、業界も、職種も、まったくの畑違いへの転職でしたが、ポータブルスキルを活かして現在も活躍されています。

では、Kさんのポータブルスキルが何だったかと言えば、「女性マネジメント」。生命保険会社の営業部長は、セールレディーたちのマネジメントが仕事であり、日々、しんどい営業をしている女性たちのモチベーションに火をつけ続けることが求められました。

こうしたスキルが、食品メーカーでも活かされます。なぜなら、食品メーカーの工場で働く人たちも女性ばかりだからです。

Kさんの場合は、自分でこのポータブルスキルに気づいて食品メーカーの求人に応募したのではなく、人材紹介会社に紹介されてはじめて、「なるほど、こういう仕事内容なら自分のこれまでの経験を活かせそうだ」と思い、応募して採用されました。

食品メーカーは当初、品質管理部のマネジャーの採用条件として、「食品工場でのマネジメント経験」と「品質管理の経験」の2つをあげていました。

しかし、求人を出して半年たっても応募者がいません。人材紹介会社に相談しても、なかなか条件に合う人がいないとのこと。マネジャーがいない状態のため、食品メーカーの社長自らがマネジャー業務を兼務していましたが、それもそろそろ限界にきており、できるだけ早急に適任者を見つけたいとのことで私の知人に相談がありました。

最初は、「食品の品質管理は特殊な仕事だから、その経験がある人でなければ任せられない」と言っていたのですが、具体的な仕事内容を聞いてみると、工場で働く女性たちに気持ちよく仕事をしてもらって、ルーティン業務である品質管理や衛生管理の行動を徹底させるのが一番の仕事のポイントであり、専門的な知識や技能を自分自身が身につける必要がそれほどあるわけではないことも分かりました。

そこで、業界や職種にとらわれず、女性マネジメントの経験が豊富な人がいないかと探したところ、セールスレディーのマネジメント経験が豊富なKさんに白羽の矢が立ったというわけです。

「どのようなマネジメントが得意か」を考える

求職者が同業界同職種にこだわったり、年収や役職、エリアなどの条件を細かくつけると、条件に合った求人が激減してしまうのと同様に、求人を出す企業も、同業界での経験や同職種での経験などの条件を細かくつけると、条件に合った求職者がいないということが多々あります。

求人と求職者をマッチングする私たちは、求職者に対しても、求人を出す企業に対しても、「マスト」と「ウォント」を分けてもらうように依頼します。必要不可欠な条件がマストであり、希望レベルの条件はウォントです。

あまりに高いレベルの理想を掲げ、高嶺の花を追い続けると、求職者は転職できませんし、求人を出している企業は採用ができません。だから私たちは、本当にマストな条件が何かを知る努力を重ねます。

Kさんのポータブルスキルである女性マネジメントは、先ほど紹介した「社外⇔社内」の軸と、「上司⇔部下」の軸の2軸で整理すると、社内と部下の象限になります。

この部下を、さらに「どういった部下のマネジメントが得意か」と考えると、自分のポータブルスキルがさらに明確になります。

女性のマネジメントだけでなく、20代前半の若い人たちのマネジメントが得意であるとか、逆に50代、60代の年輩者のマネジメント経験が豊富、頻繁にコミュニケーションをとるマネジメント、テレワークで働く人たちのマネジメントなど、ひと口にマネジメントと言っても様々ですので、それを明確にすることが転職の武器になることもあるのです。

女性マネジメントというポータブルスキルで、異業界に転職する例はほかにも多々あり、アパレル業界の管理職から病院の看護スタッフのマネジャーに転職した例もあります。人材派遣業界も女性が多いですから、女性マネジメントというポータブルスキルが活かせる業界だと言えるでしょう。

事例11)「高度なお客さま対応」を武器にしたLさん

メーカーのカスタマーセンターからショッピングチェーンの店舗開発室へ

Lさん(●歳)は、メーカーでクレームなどの対応も行うカスタマーセンターの勤務が長く、そのマネジャーのときに転職活動を行っていました。

転職したのは、ショッピングチェーンの店舗開発室。メーカーからショッピングチェーンへの異業界転職であり、カスタマーセンターから店舗開発室という異職種への転職でした。

さて、一見しただけではどこに仕事の共通点があるのか、Lさんのどんなポータブルスキルが活きた転職だったのか分からないと思いますが、実は、どちらも「高度なお客さま対応」が要求される仕事なのです。

クレーム対応が、高度なお客様対応能力を必要とすることは分かりやすいと思います。怒鳴られることもあれば、嫌味を言われることもある中で、ただ謝れば相手が納得してくれるわけではありません。冷静に相手の話を聞き、相手の高ぶった気持ちを静めながら、謝罪なり説明が求められます。

こうした高度なお客様対応能力が、なぜ店舗開発室に必要なのかと言うと、このショッピングチェーンは24時間営業を売りにしているため、地域住民から開店を反対されるケースがあるためです。

開店予定地の住民に対しては、事前に説明会を開くのですが、そこで反対者が声を荒げることがあります。そうしたことができるだけないよう、また、あったときも冷静になってもらい、話を聞いてもらえるようにする高度なお客様対応能力が必要となるのです。

その担当者としてLさんは採用され、実際に大活躍しています。

Lさんのケースも、自分でショッピングチェーンの求人を見つけたわけではなく、人材紹介会社から求人を紹介されて、自分がこれまで培ったスキルが活かせそうだと判断して応募し採用されました。

ショッピングチェーンも、当初の求人の条件は、土地開発や不動産開発の経験者でした。

この場合も、人材紹介会社の担当者がショッピングチェーンの店舗開発室の仕事内容をよくヒアリングし、高度なお客様対応能力が求められていることを確認して、その能力をもった人を探してLさんを紹介しました。

紹介されたショッピングチェーンの採用担当者は、「なぜメーカーのカスタマーセンターの人を紹介するの?」と、最初は当惑したようですが、人材紹介会社の話を聞き、実際にLさんの面接を行った結果、自分たちの求めるスキルをもっていることが分かったので採用したと言います。


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