Nさん(39歳)は、衣服などのアパレル商材をインターネット上で販売するECサイトの商品企画の仕事を●年間やっていました。その仕事に大きな不満があったわけではないのですが、もっといい仕事があればと転職活動を行っていました。

アパレルECサイトの商品企画から学校法人の経営企画へ

Nさんが転職したのは、学習塾や専門学校を運営する学校法人の経営企画職でした。

現在、学習塾にしても専門学校にしても、少子化の影響で学生の奪い合いが激しく、従来通りのやり方を続けていたのでは学生数が減ってしまいます。そうした現状に危機感をもった学校法人の理事長が、生き残るためには変革が必要だと事あるごとにいうのですが、学校という場所は、変化を嫌う傾向があり、先生も事務職の人たちも、従来のカリキュラム、従来の教科書、従来の教え方をなかなか変えたがりません。

こうした人たちだけでは、どうにも変革などできないと業を煮やした理事長が、外部に変革ができる人材を求めて求人を出しました。

Nさんは以前から教育業界に興味をもっており、学校の変革を行うという仕事を「面白そうだ」と思い、この求人に応募し、採用され、現在は学校業務から授業まで変革を次々に進めています。

では、Nさんのどんなポータブルスキルが、学習塾や専門学校を変革する仕事に活かされたのでしょうか。

アパレル業界というのは、流行を追う業界です。同じ商品を毎年扱うことは少なく、常に新しいものが求められます。その中でNさんは、商品企画の担当者としてお客さまのニーズをいち早くつかむ技能を磨いてきました。

また、春に販売する商品の企画は、その1年前の春から始まります。常に1年というスパンで「何が売れそうか」を考え、計画を立て、スケジュールを守りながら、ものづくりを行ってきました。

販売するECサイトも、技術は日進月歩ですから、それに合わせてどんどんと売り方やシステムを変えていく必要がありました。

言わば、日々変化することが当たり前で、昨年と同じなどあり得ない業界でNさんは働いてきました。そして、こうした仕事を遂行する中で培われた「お客さまのニーズの変化に対応する力」や「技術の進歩に応じてシステムを変える力」が、学校法人の理事長の目に留まり、学習塾や専門学校の変革を担う仕事を任されることになったのです。

業界の特長や格差を利用する

教育業界というのは、かつては同じカリキュラム、同じ教科書、同じ教え方を長く継続する傾向が強くありました。受験校に合格できたり、資格試験に合格できているのであれば、毎年同じようにそれらのノウハウを提供すればよいので、急激に変える必要などないと考えるからです。

ところが近年は、同じような結果を出しているだけでは、少子化によって生徒数は減少していきます。子どもの数に対して学校の数のほうが多いため、教育業界の生き残り競争は年々厳しさを増しているのです。

そんな変化が必要になっていながら変化ができない教育業界に、日々変化することが当たり前のアパレルEC業界にいたNさんが、タイムマシンに乗ってやってきたわけです。

転職数カ月後、Nさんに話を聞くと、何も特別なことをしているつもりはなく、当たり前にこれまでやってきたお客さまのニーズをつかむ調査や、そうしたニーズへの対応などを一つ一つ行っているだけだが、それでも着実に学校の変革は進んでいると言います。

変化が激しく、その変化への対応が日常的に求められるアパレルEC業界と、変化対応が遅れている教育業界には、大きな「業界格差」があるため、アパレルEC業界では当たり前のスキルが、教育業界では貴重なスキルだったというわけです。

Nさんの場合は、こうした業界格差があることを認識して、自分の変化対応スキルを売り込んだわけではなく、学校法人がそのスキルに目を付けて採用したのですが、業界格差を意識していれば、自分のスキルを売り込むこともできたでしょう。

変化対応スキルだけでなく、ある業界では当たり前に使われているスキルで、その仕事をする人なら誰もが身につけているスキルが、別の業界ではもっている人が少ない貴重なスキルになることがあります。

こうした業界格差を利用して異業界、異職種に転職することも可能なのです。自分がいる業界を俯瞰して、全産業の中で何が進んでいる業界なのか、どんな特長があるのかを考え、それを必要としている業界を見つけて転職を試みることもできると思います。


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