「働き方改革」。

首相官邸ホームページによれば、その意図するところは「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とする」ことだとされています。

実際、「働き方改革」のメニューには、最低賃金の引上げ、副業解禁、労働時間の“総量規制”など“会社と働くヒト”の関係を根本から変えるような項目が並んでいます。

「人手不足で足元の人材採用ですら計画通りに進まずに大変なのに、それどころじゃない」。

そう感じる経営者は多いかもしれません。しかし、この「働き方改革」を未来視点でながめると、その衝撃がすさまじい威力をもっていることがわかります。「働き方改革」そのものがすさまじい、と言うわけではなく、日本国が国を挙げて取り組まざるをえなくなった理由である、5年後、10年後の労働市場の状況がすさまじいのです。

「働き改革」は、未来の環境激変に対する“最低限の備え”にすぎません。

2020年にから2030年にかけて、どのような変化が「働く人」をめぐって起きているのか、簡単におさらいしましょう。日本国内の人口推移(予測)が労働環境にどのような影響を与えるか、ということです(予測値は「国立社会保障・人口問題研究所」の推計値です)。

2020年の「生産年齢人口(15~64歳の人口)」は2010年から3ポイント減少の60.7%。2030年には58.1%に減少します。一方、生産年齢人口減少の原因である「少子化」と一体となって進んでいる「高齢化(65歳以上の人口)」は、2020年には2010年から約6ポイント増の29.1%、2030年には31.6%になります。

こうした急激な少子高齢化の進展が企業活動にどんな影響を与えるのか。結論を先に言うと、「優秀な人材から選ばれた企業は継続成長し、選ばれなかった企業は消失する」。

こんな劇的な栄枯盛衰が起きているはずです。

「優秀人材から選ばれる」。これこそが、企業が厳しい未来を生き残るためのキーワードとなっているのです。

そんな中、リクルーティングの領域は、リファラルリクルーティング、AIを活用したリクルーティングオートメーション、採用活動の科学化・可視化を実現するHRテクノロジーの導入など、急激に進化が進んでいるように見えています。

30年間にわたって、転職サイトの編集長や人材紹介サービスを通じて採用支援ビジネスに関わってきた人間として、以前から疑問に感じてきたことがあります。

それは、

「人材課題といえば、採用ばかりに注力する企業が多いが、本当にそれでいいのだろうか?」

「人材募集の多くは欠員補充型なのに、なぜ人材の離職抑止に力を入れないのだろうか?」

という疑問です。

長年活躍してきた優秀な人材が辞めてしまう状況を何度も繰り返しながら、その都度、新しい人材を求めて、求人サイトや人材紹介会社に依頼。そして面接のために貴重な時間を割き、数十万円や数百万円というコストをかけて人材を採用する。「この人は期待できる」と考えて内定を出した相手に辞退されてしまったり、入社しても数カ月で退職してしまい、人材受け入れのためにかかった手間がまるごと無駄になってしまうこともある。

それだけ大変な手間と時間とコストをかけて必死に採用に取り組んでいながら、そもそも採用しなければならなくなった原因である「人材の離職抑止」にはあまり手間をかけない。

まさに底が壊れて水漏れがするバケツを修理せずに、新しい水を買ってきてはバケツに注ぎ続ける人のようです。

採用企業の経営者や人事の方にお聞きすると、この背景には、

  • 一度辞めたいと思った人間を引き留めても仕方がない。「去るものを追わず」という考え方
  • 新しい4番バッターをスカウトするような採用自体のワクワク感

という心理が働いているのではないかと思います。

しかし、どれだけ繰り返しても、パーフェクトな幻の4番バッターは現れません。4番バッターになる素質がある人も、それなりの受け入れ態勢や適正なミッションや納得できる評価・報酬、成長のための支援を続けなければ、やがて心が離れていってしまいます。

手間やコストだけではなく、優秀な人材が請け負ってきた活躍を埋めるまでの時間に起こる膨大な無駄をなくすためには、やはり人材の離職抑止策が最重要な人事施策だと考えます。

優秀人材の離職抑止は、無駄な採用コスト削減にとどまらず、その人材が生み出してくれる利益の獲得の2つのメリットを両取りすることでもあるのです。


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