「こんなに頑張っているのに評価してくれない」という不満は、転職を考えるきっかけで最も多い理由の一つです。米国の心理学者、エラノー・ウイリアム教授とトーマス・ギロビッチ教授の共同研究によると、自己評価は「自分が最も良かった状態」が基準になり、他者評価は「その人の行動の良いときと悪いときの真ん中」が基準となるそうです。評価の絶対的な正しさを測定するのは困難ですが、他者からの不本意な評価に揺さぶられず、自分が納得いくキャリアを築いていくにはどうすればよいのでしょうか。

自己評価は、他者から見た評価の2割増し

日々、転職相談でお会いしている方々にきっかけを伺うと、「人事評価に対する不満」を挙げる人が半数近くおられます。

「自分が苦労して生み出した成果も、いつのまにか部長の成果にすり替えられている。それだけならまだしも、いくら頑張っても昇格や昇給で評価されない」(42歳・医療機器商社・営業課長)

「いくら奮闘しても年々、年収ダウンを余儀なくされていて、やる気がそがれるばかりです。人事考課の公平性もへったくれもありません」(49歳・百貨店・部長)

みなさん、自分自身ではそれなりに努力や工夫をして成果を上げているということなのですが、よくよく話を伺ってみると、数字としての結果が説明しづらかったり(売り上げは伸びていないがマイナスは回避した、など)、明らかにがんばりや努力はあるものの、定性的なものだったり、属人的なものだったりして、客観的に評価する難しさを感じることが多いのも、また事実です。

「自分が自分自身を評価すると、他者評価の2割増しになり、他人が自分自身を評価すると、自己評価の2割引きになる」という評価ギャップの法則を耳にしますが、文頭の調査を見ると、人間は誰であれ、どうしても自分びいきになる傾向があるのかもしれません。

とはいえ、人事考課や異動などで、期待を大きく下回るような扱いを受けると、心が折れてしまったり、怒りや悔しさがこみあげてきたりするのも当然です。

転職活動を始めるまでに至る方は、まだ少数派で、「残念で悔しくて仕方がないが、すぐに転職するのはさすがにおおごとなので、しばらく様子を見る」とか、「心は折れそうだが、これも運命と思って開き直ってみよう」と心を切り替えるという方が多いのではないでしょうか。

チームプレー、謙遜、遠慮という風土

人事評価のブレやゆがみには、日本固有の価値観や風土が影響していることもあるようです。

  • チームプレーを重視する傾向
  • 謙遜や遠慮が美徳とされる価値観
  • 「みんなと同じがいい」「出る杭は打たれる」に代表される同質性・同調性

たとえば、特に歴史の長い日本企業にありがちなこうした風土によって、せっかく自分が努力を重ねて勝ち取った業績も「チームのおかげ」「自分だけではできなかった」と、自己の関与度を低めに申告するケースもまだまだ根強くあるようです。

実際、たいていの仕事は個人完結ではなく、何らかの形で分業化されていることもあり、「何から何まで自分一人が生み出した成果だ」と言えるケースはほとんどないと思いますが、「どんな課題に対して、自分なりにこう工夫した結果、この部分はここまで改善した」といった説明ができることは多々あるはずです。

外資系企業やコンサルティング会社、比較的新しい産業であるIT(情報技術)関連のベンチャー企業では当たり前ですが、上記のようなプレゼンテーションは、自分の仕事の結果に対する説明責任でもあるので、成果とプロセスをロジカルに説明できる能力は、今後さらに求められてくるはずです。中途半端な遠慮や謙遜で不当な評価をされないためにも、しっかり磨いていく必要があると考えています。

「自分軸」作りの3つのヒント

納得できない人事考課、望まない人事異動、役職定年を含む降格など、ある日突然、「自分はこれだけやってきたのに、なぜ会社は評価してくれないのか?」という事態が起こった時に、どう対処していけばいいのでしょうか。

多くの方々から転職のご相談を受けてきた私なりの結論は、「いずれ起こるかもしれないストレスフルなシーンを予測して、そのときが来るまでにタフな自分軸を築いておくこと」が最大の予防策になるというものです。キャリア相談という形で、多種多様な方とお会いしてきた立場から、強い自分軸を持つための3つのヒントを紹介しましょう。

(1)会社人間にならない

これまでお会いしてきた方々の中で、「この人には自分なりの軸や芯がある」とか「考えてきたことと行動してきたことにきわめて一貫性が高い」などと感じる方には、大きな共通点があります。会社や事業、関わっている市場に対する愛着性、コミットメントが高く、それに比べて、所属組織や上位者(経営者や上司)に対してのロイヤリティーは希薄に見えるということです。

事業のドメインや、業務が及ぼす社会的影響には極めて敏感で、そのためには惜しみない努力をする一方で、社内政治や短期的な社内評価のことはあまり気にしない(しかし、業務に制約が生まれる実質的権限や自由度は重視する)というタイプの方々です。頑固な職人ということではないので、社内での立ち回りもうまいほうだとは思いますが、そこに軸足を置いていないといったほうが自然かもしれません。

会社人間ではないが、事業人間である。こういう方は、「自分で自分の人生を選んでいる」と、主体性が高いぶん、周囲にもその安定感がくっきりと見えるのかもしれません。

(2)自分の人生にとってのプラスに着目する

自分軸を持っている方の2つめの共通点は、「不満を根に持たない」「愚痴を言わない」という傾向です。とはいえ、そういう方々も、決して順風満帆なキャリアを築いてきたわけではありません。上司との相性が悪く評価的に不遇をかこった時期があったり、派閥抗争に巻き込まれて割を食ったり、極端な場合は、降格などの憂き目にあっていたりして、それなりに腹がたったり、悔しがったりしているものの、自分にとってマイナスな人間やマイナスな出来事にはそれほど興味がないように見受けられます。

自分にとってプラスになることに気持ちを強く持っていくのでそう見えるのかもしれませんが、「飄々(ひょうひょう)とした前向きさ」を持っている方が多いという特徴があります。

(3)第三者評価に期待しない

最後の一点は、他者からの評価を期待しない、誰かの顔色をうかがわないという特徴です。自分のプラスになることに着目して、仕事にコミットしていけば、エンジニアであろうが、セールスであろうが、バックオフィスであろうが、結果的に強い自己信頼が生まれて来るからなのかもしれません。年齢が若くても、高学歴でなくても、自己信頼度の高い人=プロフェッショナルは、いつの間にか自分で自分を評価できる客観性を鍛えられているともいえるでしょう。

※この記事は日経電子版「NIKKEI STYLE」に掲載されました。CR40を運営するルーセントドアーズ株式会社代表の黒田真行が執筆しています。


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